古い写真が一枚


私のおじいちゃんとおばあちゃんは、すっごく、すーっごく、仲がいい。
二人がお互いを見る目はとても優しいし、もう結構な年のはずだけど時々手を繋いで歩いていることだってある。あそこまで好きになって好かれるような関係を、私は他に知らない。お父さんとお母さんだって、ああまで仲良くはないんじゃないかな。とにかく、憧れの二人だ。

ある日、二人の部屋の前を通りかかると、開いたドアからおばあちゃんが一人で懐かしそうに何かを撫でているのが見えた。
「おばあちゃん、何してるの」
「あら、見つかっちゃった」
いたずらを見つかったような茶目っ気のある表情でおばあちゃんが笑う。
部屋に入ると、二人の匂いがした。私の好きな匂い。
「見る? おばあちゃんの宝物」
「何? 見る見る!」
なんだか秘密を共有してもらえたようで嬉しくて、駆け寄ってしまう。
「……写真?」
おばあちゃんが持っていたのは一枚の古い写真だった。何故か真ん中で破かれていて、補修した跡がある。
写っていたのは二人の男女。二人ともなかなかの美男美女だ。そしてその面影に見覚えがあった。
「霧隠の千夏さん、知ってるでしょう? 昔ね、あの子に撮ってもらったの」
霧隠の千夏おばさんは、友達のお母さんだ。夫の虎太郎おじさんとともに、先生をやっていたおばあちゃんの生徒だったと聞いている。
「ねえ、これって……おじいちゃんとおばあちゃん?」
「そうよ、よくわかったわねえ」
「だってなんとなく面影あるし、うわー、おじいちゃんまじで美男子! かっこいー!!」
おじいちゃん、若い頃はモテてたんじゃないかとは思っていたけれど。歓声をあげると、おばあちゃんは嬉しそうに笑った。
「そうねえ、かっこいいしいい人だったし、おばあちゃん、初めて会ったとき運命だと思っちゃった」
そう言って笑うおばあちゃんが、まだ現役でおじいちゃんに恋をしている乙女のようだったので私はなんだかどきどきした。
「おばあちゃん、おじいちゃんのこと大好きなんだね」
「ええ、そうよ。あんな素敵な人他にいません」
きっぱり言い切るおばあちゃんが羨ましい。
「……いいなぁ、私にもそんな人が現れてくれないかなぁ」
「大丈夫よ。いつかきっとそういう出会いがあるわ」
そうかなぁ?
「でもなんでこの写真破れてるの?」
「ふふ、それは内緒」
「えー」
口を尖らせたけれど、おばあちゃんは笑って何も教えてくれない。
そのとき、おじいちゃんの声がした。
「ああ、亜衣子さんここにいたのか」
「あら、響史さん」
おじいちゃんは部屋に入ってくると、おばあちゃんの持っている写真を見て、何故だか苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……なんだ、まだ持っておったのか、その写真」
「ええ、私の宝物ですからね」
澄ました顔のおばあちゃん。その一言にますます渋面を作るおじいちゃん。
「写真なら他にも色々あるだろう……」
「これに勝るものはありません」
「?」
二人のやり取りにきょとんとしていると、おじいちゃんがため息をついてから私の方を見て笑った。
「写真を見たのか? 亜衣子さんは美人だろう、まあ年を経た今もなお美しいがな」
「響史さんったら!」
うわあ、アツアツだ。
「うん。おばあちゃんも美人だけど、おじいちゃんもほんとにかっこ良かったんだね。
 おばあちゃんが今でもおじいちゃんにぞっこんな理由、充分わかったよ」
そう言うと、今度はおじいちゃんがきょとんとした顔になって私の言葉を否定した。
「何? それは違うぞ」
「え?」
にんまりと笑って、どこか得意気におじいちゃんは言った。
「今でも亜衣子さんに首ったけなのは私の方だ。亜衣子さんがいなければ今の私はないからな」
「響史さん……」
微かに頬を染めておじいちゃんを見つめるおばあちゃん。
うわあ、アツアツだ。これはちょっとアツアツ過ぎる。このままここにいたら、あてられてゆだってしまいそうだ。
「おじいちゃんもおばあちゃんも、お互いにまだ恋してるんだね……」
「そうだぞ、知らんかったのか」
「うふふ、そうかもしれないわね」
「参った! 参りました!! お幸せに!」
照れ隠しなんて微塵もない、まっすぐな肯定の言葉に降参して、私は部屋を出た。ああ熱い。
いつか私にも現れるだろうか、あんなに私が好きになって、私を好きでいてくれる人が。

私のおじいちゃんとおばあちゃんは、すっごく、すーっごく、仲がいい。
孫の私があてられてしまうくらいに、お互いにメロメロだ。いつも一緒にいて、いつも一緒に笑っている。お似合いの二人だ。憧れの二人だ。
そんな二人の間に生まれた愛が、世界が滅亡しかけたとある戦いにおいて生まれた物なのだということを私が知るのは、もう少し後の話になる。

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